「うんしってるよ。」
最初からいけなかったなんて。
「君とそっくりな子が良いなあ。可愛くて素直で」
今更の優しさ ちくりと刺さる
「名前何が良いかな?僕と君の名前と一文字ずつ取るとか良さそうじゃない?」
そうね でももう無理なのよ
朦朧とする意識の中、薄っすらと見える天井。
台所からは香辛料の香り。
(ああそうか。カレーそのまんまだったなあ)
先程まで居た筈の佐助の姿が見えないので、きっとカレーにかけていた火と止めてくれたんだと解釈する。
三枚ほど重ねてあった掛け布団を押し退け、むくりと起き上がる。
雨は先程よりは軽くなっており、ぽつりぽつりと優しいリズミカルな音を奏でていた。
ぼやける視界をはっきりさせる為、寝ぼけ眼を擦った。
ううーん、と唸りながら擦っていると、ドアがゆっくりと開いた。
「やっと起きたか。Good morning」
「あ、先生」
お昼過ぎの時間帯に似つかわしくない挨拶をした先生がベッドの脇の椅子に腰をかけた。
両手に持ったコーヒーを枕元の机に置き、ふうと一息ついた。
「大丈夫か?少しは楽になったか」
私は手渡された片方のコーヒーカップに口をつけてこくりと少し飲んだ。
ほう、と暖かい息を漏らし、先生の方を見てうんと頷いた。
「よしいい子だ」
先生は子供をあやすような手で私の頭を撫ぜる。
「先生からのお土産もあるよ」
お盆に何かを乗せて入ってきた佐助に先生は気付き、ああそうだと言う。
「さっきアンタ、プリンが食べたいと言ってただろ?ちゃんと買ってきたぜ」
ほら、とお盆から一つプリンを取り私に渡す。
それを見た瞬間、きっと私の顔はすごく綻んでいたのだろう。
先生は「子供みたいだな」と言い、にかっと笑った。
「先生」
プリンを食べ終え、コーヒーをちびちびと飲む。
新聞を広げて読んでいた先生は、突然呼ばれて少しびっくりしていた。
「私頑張るよ。負けないもん」
「どうした突然」
大きく広げていた新聞をゆっくり折り畳みこっちへ向き直る。
私は薄く目を開けてお腹を抑えた手をまじまじと見つめていた。
「どんな辛い事が起きようと頑張る。だってこうして傍に居てくれる皆が好きだから」
そのまま目線を先生の手を見る。
汚れのない白く細い骨ばった指。一つも無い指輪。
未婚には見えない程落ち着いていて大人っぽい。
「アンタも偉いな。そうやって頑張る姿、好きだぜ」
にかっと大きく笑い、白衣のポケットに手を突っ込む。
ごそごそと暫く中を探ると、目当ての物を見つけたのか、手をポケットから出し此方へ差し出してきた。
「ご褒美だ。と言っても対した物じゃないけどな」
私も手を出すと握っていた物を掌に優しく置いた。
ビー玉のように透き通った綺麗な飴が三つ。ころころと手の上で踊る。
「いつも来る子供に貰ったんだ。アンタにやるよ」
優しく先生は笑うと椅子から立ちあがって私を起こした。
「ちゃーん。せんせーい。お腹減ってない?」
台所から佐助が呼びかけてくる。
「丁度いいtimingだな」
ずっとベッドの上で寝ていたり座っていたりだったので、足元ふらふらとする。
立ち眩みがし、倒れそうな私を先生がすかさず支えてくれた。
「お、おい!大丈夫か?」
焦り気味に私の顔を覗き込む先生を横目に私は少しどきっとしてしまった。
(やっぱりかっこいいなあ)
私は大丈夫といい体勢を直す。
右腕を支えられながらリビングへ向かう。
先程まで匂っていた香辛料の香りはすぐそこで私の鼻腔をくすぐった。
「ちゃん大丈夫?食べれる?」
控えめに盛られたカレーを置き、椅子をひく。
片手でありがとうとお礼をし、座る。
スプーンを持ち、カレーをじっと覗き込む。
(焦げては…いないよなあ。大丈夫かな)
ずっと火にかけっぱなしだったルーを心配し、ご飯とルーを程よくすくう。
ぱく、と一口食べてみるが特に変だというところは無く、寧ろ美味しかった。
「ちょっと手加えちゃったけどどうかな。美味しい?」
机に両肘をつきこっちを見てくる佐助にうんを首を縦に振り、もう一口口へ運んだ。
「良かった。先生も食べて、ほら」
とくとくと水をコップに注ぎながら佐助は軽く微笑んだ。
先生は「おう」と言うと大きく口に頬張った。
「なんかさ。先生とうちの旦那って似てる気がするんだよね」
まるで母親が自分の息子の話をする様に佐助は言い始めた。
「食べ方とか、時々見せる笑い顔とかそっくり」
自分もカレーを一口食べ、先生を見る。
そんなにか?と水の入ったコップを掴み佐助を見る。
お互いが見詰め合う。
微妙な空気と沈黙。それに耐えきれず私は「わあ!」と大きな声を出した。
「な…?なな何?」
二人揃って同じ焦り方をする。そんな姿があまりにも可笑しくて私はお腹をおさえて笑い始めた。
先生と佐助は目をぱちくりさせて固まる。
が、ずっと笑っている私の姿を見て二人もつられて笑う。
部屋中いっぱいに笑い声が響く。
この時間がずっと続けばいいのに。
そう思いながらもずっと私達は笑っていた。
(ずっとこうして笑っていれれば楽しいのになあ)
(フラッシュバックする思い出、捨てたい過去、自虐的な思考回路)
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やっと二話です。遅くてすいません。
催促されなければきっともっと遅かったですすいません。
だらだらと話しが長くなってしまいそうなので、
きっとどこかで急展開になりそうです。うむう…