さえいてくれれば
僕は何処までも行けるよ
















森を走れば鳥が鳴き、木の穴を覗き込めば青空が見える。

そんなのん気な事を言っていられるのも子供のうちだけで、もう大人の俺には夢も何も無かった。

ただ忍んで、敵を切り殺し、将軍の御首を頂き、主人に奉納する。それだけだった。

別に望んでこの仕事をしている訳じゃない。

家系のためにただこんな仕事をしているだけだ。

母親が特別美人で、父親が特別権力を握っているわけでも無い。

莫大な財産がある訳でも無い。

ただ、先祖代々この仕事。つまらない。

ある日、仕事の為信州まで行った。

なあに、俺だったらひとっ飛びさ。忍びだから。

でも余裕がある訳じゃない。今回の仕事はなんだか胸騒ぎがする。

武田信玄が恐ろしいのか?

真田幸村が怖いのか?

自分にも分からなかった。寧ろ、分かりたくなかった。

不安事は知らぬが仏、知らないほうが仕事をしやすい。

信州には俺と同じ忍びがいるって噂。

それが怖いのか?

殺されかけたら逆に殺してやろう。

と、俺は思った。

東北育ちの俺にとって信州は暖かくて行動しやすい。

それに木が生い茂っている為、非常に隠れやすい。

腰につけてある物入れ袋に無造作に手を突っ込み地図を出す。

(武田はどこに、っと)

地図を大きく広げ、上田城を探す。

俺は上田城を見つけるとそこに筆で印を付けた。

林を駆けた。

鳥が高く鳴き、馬の嘶きが聞こえる。

「なんだアイツは!ひっ捕らえよ!」

と言う声が緑の奥深くから聞こえ、俺は木に登りその声の響いた場所を探す。

その場所には軍の者と思える者と、一人の少女がいた。

少女は何かを胸に抱き、軍の者に囲まれ半泣きで首をふるふると振っている。

(ちっ、女子に手を出すたァ悪い奴だねェ)

俺は物入れから煙玉を出すと、軍の奴らに投げた。

少女が煙を吸う前に俺は、そのか細い腰を抱き上げまた木の上に登った。

(ふぅ、なんとか助けられたな)

俺はまだ抱きかかえていた少女を降ろしてやると名前を教えてやった。

「俺の名前は。アンタは?」

俺がそう問いかけても少女は口をぱくぱくさせているだけだった。

少女は木から降りたがった。

俺はまた腰をひょいと担ぐと木から降り、地面に足を着け少女を降ろした。

少女はきょろきょろと辺りを見まわし、木の小枝を見つけると、それでなにかを書き始めた。

「さすけ。お前佐助って言うのか?」

俺はそう彼女に訪ねると、にこと笑って俺に飛びついた。

「佐助、お前喋れないのか?」

と聞くと首を僅かに縦に振って俺から離れた。

両手を頭の上で動かし、今度は胸の前で手を交差させた。

そして俺を指差してにこと笑い、頭をぺこっと下げた。

「ご免、何て意味か分からなかった…んだ…」

俺は頬をぽりと掻きながら謝ると、佐助は何やら胸の前で印を結んだ。

頭の辺りに煙が現れ、それが形を成していく。

少しするとそれは猫の耳だと分かり俺は納得した。

「分かった!猫を助けてあげたところさっきの奴らに捕まってしまったんだな?」

俺がそう言うと、当たっていたんだか佐助はものすごく嬉しそうに笑うとまた俺に飛びついてきた。

そういえば、とさっき佐助が印を結んでいる事に気付き、俺は佐助の格好を見てみた。

どう見ても一般の人の格好ではない。非常に動き易そうな身なりだった。

腰には手裏剣やらくないやらがあり、どう見ても忍の姿だった。

もしかしたら佐助が噂の忍、か。俺はため息をつき佐助の小さな手を握った。

少し骨ばっていて年頃の女子とは思えない細さ。

佐助は急に手を握られたのがびっくりしたのか、きょとんとして俺を見つめた。

「佐助の主人は誰だい?」

佐助は俺の手を外すとまた印を結んだ。

角の生えた赤い毛の兜を被っており、重みに耐えられないようでふらふらしていた。

「ありがとう、転ぶと危ないから術を解きな」

佐助は術を解き少しほっとした。

本来なら、と考える。本来ならこの場合さっきの兜からすると佐助は武田の忍と言う事になり、

敵と言う事になる訳で、殺さなければならない。

でも良く考えてみろ。佐助は悪い奴じゃない。寧ろ、可愛くて純粋だ。

それにこんなに猫を助ける為だけに必死になってぼろぼろになって…

俺はふぅと息をついた。どうしようか、と。

佐助はあくまで武田の忍。連れて帰ったらどうなるか。

でものこのこと上田城に連れて行ったって俺が殺されちまう。

「しょうがねぇ、城の手前までは連れて行ってやるよ、な?いいだろ?」

俺がそう言うと佐助はこくんと頷き小さな右手を差し出した。

俺はその小さな手を笑いながら握ってやると城まで連れて行ってやった。





予想以上に大きかった。

城の入り口は飲み込まんばかりに大きく開き、奥は美しい石で道を作っている。

「佐助、俺はここでお別れだ。見つかっちまったら殺されるからな。」

ずっと握っていた右手を離してやると、お行きと背中を押した。

でも佐助は言う事を聞かず、俺の袖を掴んだまま俯いた。

佐助の顔を覗き込むと、泣き顔だった。

こういう時どうすればいいのかまったく分からなかった俺は佐助の頭を撫でてやりながら

「いつか会いに来るよ。だから泣くなよ。な?」

と優しく言ってやった。母が昔よく泣いていた俺にこうしてくれたのを覚えている。

佐助は掠れた声で「分かった。約束だよ、。」と言った。

喋れない筈、でも声が出た。掠れているが透き通った綺麗な声。もっと聞きたかった。

「ああ、絶対、な。」

俺は佐助の小さな手の小指に自分の小指を絡め、約束を誓った。









見つけた見つけた小さな君





またいつか会う事を誓って…














後書き

icoの誕生日に書いた奴なんですけど、女体化目当ての人が多いみたいなのでこちらも名前変換機能を変えました。

いつか連載でやりたいなぁ…と考えている♀佐助のお話でしたっ