いつも見なれた歩道を政宗と二人、並んで歩く。
政宗ももう大人の男だし、私との身長差は頭一個分はゆうにあり、見上げないと政宗の顔が見れなかった。
「ねえ政宗」
私はなんだかその差に苛立ち、正面を見たまま政宗を呼んだ。
「Ah-?、いきなりどうした?」
さっきから携帯を弄ってる彼は、素っ気無い返事を返してきた。
「…なんでもない」
「何でも無くないだろ。人を呼ぶには何か用事があるときだけだって前にアンタ言ってただろうが」
ただなんとなく呼んでみたかっただけなのに、痛い言葉を浴びせられ「ゔ」私は俯く。
そんな私の様子に気付いたのか、政宗はくくく、と笑い、携帯をポケットにしまい込んだ。
「なんだよ?何の用だァ?くくく」
意地悪そうに笑う政宗。その姿を隣で見ていて、すごく腹が立ったので、一発すねに蹴りをお見舞いした。
「Shit…上等じゃねえか…覚悟しな?」
蹴られたすねを涙目で擦りながら政宗はにやと牙を剥き出しにした狼の様に不適な笑みを浮べた。
Hun、と声を漏らすと両腕を高く上げ、獲物を捕まえるように構えた。
「えっとー…まさむ…ね?」
じり、と後ずさりをして逃げる姿勢を取る。
一瞬、政宗の目がきらりと光った。
「Ok!Let's party!」
子供の様に大声を出して一気に駆け出してくる。
私は政宗から逃げる様に全力で走った。
が、追いかけてくる政宗の速度はどんどんと速まり、いまにも追いつかれそうだった。
追いつかれませんように!と後ろを見ながら走っていたら、どん、と誰かにぶつかってしまった。
「す、すいません!」
ぶつかった反動で後方に倒れて尻餅をつく。(新しい服だったのに…!政宗のばか!)
「大丈夫?」
ぶつかられたのにもかかわらず、優しく私の事を気遣ってくれる。
白く綺麗な手。手首には迷彩のリストバンドと緑と黄色の紐で編まれたミサンガ。
(この声、どっかで…?)
手元に行っていた視界を相手の顔に移す。
ヘアバンドにヘアピン、顔にペイントと、個性的な格好…
「さ、佐助ぇ!」
「うんうん、俺様参上!ってね!」
ほら、と先ほどの人―佐助は手を差し出し私を立ち起こさせてくれた。
既に追いついていた政宗はむすっとした顔で腕を組み、私の方をじっと見ていた。
指がぴくぴくと動く。これは政宗が怒っているときの合図で、ヘタな行動をとると半殺しにされる恐ろしいシステムがある。
そんな殺気に気付いた私は、立ち上がってすぐに手を離し「ありがとう」と言って政宗の傍へ寄った。
「ちょっと冷たいんじゃない?あれ、伊達のトコの旦那だ」
随分ぶり!と佐助は政宗の肩に手をぽんと置き、明るく笑った。
政宗は佐助をちらと見ると、軽くちっと舌打ちをして歩き始めた。
あれ?と佐助は拍子抜けしたような顔で政宗の背中を目で追ってゆく。
頭をぽりぽり掻いて私の顔を見て「行こっか」と右頬を膨らませながら言った。
そんな佐助の姿が、(年上なのに)子供っぽく見えてきゅんと来てしまった。
(なんという不意討ち…ううーん…)
私は佐助につられて政宗を追った。
無事政宗を落ち着かせ、約束していたお店に入った。
一緒についてきていた佐助もちゃっかりメニューを開いて何を食べるか見ていた。
私はそんな佐助のことを一切気にせず、じっと政宗を見ていた。
意外に長い睫毛がその奥にある透き通った瞳を遮る。白すぎない頬を艶やかな髪がそっと撫でる。
男のくせにもしかしたらそこらの女性よりも綺麗なんじゃないか、と言えるほど色っぽい。
そうやってずっと見ていると、薄い唇がにいと笑った。
(やばい…ずっと見てたのばれたかも…)
私は焦り、さっとメニューで顔を隠した。
生憎政宗は私の様子には気付いたものの、何もしてこなかった。
しばらくしてそれぞれの注文も決まり、お手洗いに行きたかった私は、佐助に自分の注文を頼み化粧室へ向かった。
「ねえ伊達の旦那」
「ん?どうした」
佐助はカラカラ、とストローを回しアイスコーヒーと氷が溶け合うのを楽しみながら言った。
「あんたさあ、あの子とちゃんのこと重ねて思ってない?」
突然の言葉に政宗は惚けた顔で「Ha?」と聞き返す。
「だからさ、あんたはちゃんの事が好きなんじゃなくって、あの子が好きで、あの事をずっと引きずってるだけじゃないの?」
「それ、どういうこと?」
私は丁度お手洗いから戻ってきたところでこの話を聞いた。
あの子?あの事?いったい何?
そんないくつもの疑問を胸に、私は席に着いて政宗と佐助の顔を交互に見遣った。
「え…まさか旦那、ちゃんになーんも話してないとか…?」
「悪ぃ」
政宗は空気が不味くなったのを悟ったのか、がた、と席を離れて何処かへ行ってしまった。
「佐助、さっきの話、何?」
佐助ははあ、と一つ溜息をつき、「話して言いのかな」と呟いた。
それに対して私は椅子から落ちそうなほどの勢いでうん!と言った。
佐助は軽く座りなおすと、机に肘をつき話し始めた。
「数年前、旦那はね彼女がいたんだ。それもすごく美人さんで大人しめの子。お似合いカップルだった訳。でもその二人が付き合ってるのを知ってたのは俺様含め十人にも満たなかった」
「二人はすっごく仲が良くてね。そのまま結婚しちゃうかもな、って噂になったぐらいで。でも二人の間を引き裂く事故が起こってしまったんだ」
私はごくりと唾を飲んだ。佐助はやんわりとした表情で話しを続けた。
「ある雨の日の夜。いつものように彼女の家で二人で過ごし、二人でコンビニにお菓子を買いにいったんだ。そこまでは良かったんだ。」
からからとアイスティーをかき混ぜる。すでに氷の半分が溶け、先程よりもぶつかる音が少なくなっていた。
「買い物を終え、帰路につくとき、信号が点滅していた。彼女は慌てて渡ったんだ。旦那は少し送れてしまい渡れなかった。既に渡りきった彼女が旦那に手を振る。『ゆっくりでいいよ』ってね。安心して旦那は信号が青に変わるのを待った。そんな時」
佐助は一旦話しを中断させアイスティーを口に含む。喉仏が上下し、グラスから口を離した。
軽く水滴のついたグラスを置き、一息ついてからまた始めた。
「そんな時にね、酔っ払いが車で突っ込んできたんだよ。彼女にね。さっきまで向こうで手を振ってた彼女は車の下敷き。そのまま病院へ運ばれたんだけど…」
「『私の事は忘れて、幸せになってね』と一言残し…彼女はとっても健気で良い子だった。俺様だって好きだったよ。なのになんであの子が…」
とまあこんな感じ。佐助は肩を竦めにこと笑った。
「政宗にそんな過去があったなんて知らなかった…;なんで教えてくれなかったんだろう」
「きっと、俺様の考えなんだけどさ。ちゃんに気を使わせたくなかったんじゃないかな。旦那ってああ見えて結構心配する人だからさ」
いつのまにか来ていたウエイターが、お皿を一つずつ丁寧に机に置いた。
自分の分。佐助の分。そして、政宗の分。
私はがた、と立ちあがり、
「政宗を探してくる!」
と言ってテラスから出た。
後書き
とても遅くなってしまいました…なんてこと…!
本当は過去話しはもっと後にするつもりだったのですが…我慢できずにもう入れてしまいました…
これからもっと急展開になりそうです